動画制作から「不自然さ」を学ぶ

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2022/10/14

目次

私が初めて動画を作ったのは高校2年生の頃だったと思います。

初めはモーショングラフィックスに興味を持ち、大学生の頃は実写映像を中心に制作していました。

現在は、メインはUIデザイナーとしてアプリのデザインを制作し、たまに依頼があればアプリの宣伝用動画などを作成したりもしています。

最近作成したものだと例えば、以下のONEモールリリースに伴った動画制作でしょうか。

今回は、動画制作の中でも実写映像ではなく、最近よく制作しているモーショングラフィックスの観点で話をしようかと思います。

不自然なものは作らない

動画は、情報をたくさん詰め込められることに加えて、SNSでも拡散しやすい媒体です。利点はあるのですが、ほぼ初めて動画を作る人にとっては、ハードルが高いのではないでしょうか。新しい技術を学ぶ際は苦痛が伴うものです。

私が制作の際に“意識”していることは「不自然なものは作らない」ことです。

ZOZOTOWNは2004年に登場した当初、CGで作られたバーチャルな店舗が立ち並ぶ、“架空の街”でした。当時、お客さんにとって「インターネットで服を買う」ということは当たり前ではなかったため、CGを使ってお客さんに伝えることで、オフラインの店舗でのブランドイメージや雰囲気を取り込むためだったようです。当時の人にZOZOTOWNがネット上にあると思われず、「ZOZOTOWNってどこにあるの?」と聞かれたこともあったようです。

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参考:「ZOZOTOWNの創造的破壊(前編)―15年前、CGで作られた架空の”街並み”は必要だったのか」https://note.com/zoooom/n/n4560de78b710

つまり、その時の私たちにとって不自然でないもの(自然なもの)を作れば、違和感を軽減でき、受け手はスムーズにそれに入り込むことができるのです。

動画の動きは緩やかに

それでは本題です。不自然でないものが良いと発言しましたが、「不自然ではない動画」とはどういうことを指すのでしょう?いくつかあるかと思いますが、動画の肝である「動きの付け方」にフォーカスを当ててみます。(以下で紹介する内容は、よく動画を制作する人にとっては常識かもしれません。)

ポイントは、動きの始まりと終わりを緩やかにさせることです。モノが動く時は、等速直線運動をしていない限り、動き始めは停止状態から曲線を描くように加速し、動きの終わりではまた曲線を描くように徐々に減速し停止します。電車や自動車、人の動きも同じです。よって、モノの動きの始まりと終わりが緩やかになることを意識すると、自然に見える動画を作成できるということです。

例えば、まずは緩急を全くつけていない例を見てみましょう。

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変ではないけど物足りないです。あえてチープに見せたい場合ではない限り、もうひと手間加えたい動きです。

下の画像は、上の動画を作成した際のAfterEffectsのグラフエディターの一部です。緩急を全くつけていないため、動きの始まりと終わりの位置を直線で結んだだけの形になっています。

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次に、緩急はつけたものの、動きの始まりと終わりに急加速している例です。

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見えない磁石があって、それに張り付きながら動いているようにも見えますね。そこに磁石があるという設定がない限り、とても不自然な動きの見え方になります。

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最後に、動きの始まりと終わりに正しく緩急をつけた例です。

これがこの中だと最も自然に見える例です。

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下の画像のように、動きの緩急を示す曲線がS字のようになっている状態が、自然な動きと言えます。

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動きの緩急のみを変えた動画を3つ並べてみましたが、見え方が大きく変わりませんか?

予備知識:どこを切り抜くか

予備知識として大事になってくるのが、「どこを切り抜くか」です。次の3つのアニメーションを観察してみましょう。

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想像すべきなのは動画のフレーム内だけではなく、フレーム外まで続く、車の全体の動きです。車の動きが、出発時に停止状態から加速してから走行し、停止時に減速して停止する動きだとします。その際、動画内に入れたい動きが「出発時」なのか「走行中」なのか「停止時」なのか、または「動き全体」を入れたものなのかなどを考える必要があります。

「出発時」なのであれば、停止状態から加速していく動きに(1つ目のアニメーション)。「走行中」なのであれば、ある程度一定の速度を保ったままの動きに(2つ目のアニメーション)。「停止時」なのであれば、減速して停止する動きになります(3つ目のアニメーション)。

全体の動きのどこを切り抜いた想定かにより、動画内のアニメーションは変わってきます。

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あえての不自然さ

ここまで、動画の動きの付け方の観点から「不自然なものは作らない」ということを話してきました。しかし、あえての不自然さを加える場合もあります。

以下の動画を、前述した「動画の動きは緩やかに」というルールに全て沿っているか、よく観察しながら見てみましょう。

少し分かりづらいですが、この動画は、動き始めと動きの終わりが緩やかに作られていない箇所が幾つかあり、急に動き始めたり急に停止したりもしています。だとするとこれは、私のここまで理論通りだと「不自然なもの」として扱われてしまいます。ということはこの動画は失敗作なのでしょうか?

私はこれを一種の演出だと捉えます。

「不自然ではないものが良い」と主張しましたが、「見ていて不自然ではないものを作り続ける」ということは、すなわち「既視感のあるものを作り続ける」ということと近いと考えています。もちろん既視感のあるものというのは、受け手にとって見やすく使いやすい、ごく自然なものです。しかし目的によっては、自然で既視感のあるものに物足りなさを感じてしまい、作り手側が「新しさ」や、あえての「不自然さ」を求めることも少なくありません。

これは動画制作に限った話ではありません。前述したZOZOTOWNの例を振り返ってみましょう。

ZOZOTOWNは2004年に登場した当初、CGで作られたバーチャルな店舗が立ち並ぶ、“架空の街”でした。当時、お客さんにとって「インターネットで服を買う」ということは当たり前ではなかったため、CGを使ってお客さんに伝えることで、オフラインの店舗でのブランドイメージや雰囲気を取り込むためだったようです。当時の人にZOZOTOWNがネット上にあると思われず、「ZOZOTOWNってどこにあるの?」と聞かれたこともあったようです。 つまり、その時の私たちにとって不自然でないもの(自然なもの)を作れば、違和感を軽減でき、受け手はスムーズにそれに入り込むことができるのです。

ここではこれを「自然なもの」を肯定するための例として挙げました。しかし「CGで作られたバーチャルな店舗が立ち並ぶ、“架空の街”」は、紛れもなく「新しさ」を求めた上での表現方法ですよね。

「自然で使いやすく、かつ新しいものを作りたい」という場面には私自身も多く遭遇します。しかし、「自然さ」と「新しさ」は、間接的に相反するところに位置していると考えているので、実現させることが難しいのです。

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自然さ・不自然さ・既視感・新しさの関係図

WEDではPHILOSOPHYとして「あたりまえを超える。」という言葉を掲げています。これも非常に難しい言葉です。

「あたりまえを超える」という言葉だけにとらわれてしまうと、ユーザーにとっての利便性や快適さからは離れてしまうかもしれません。ですが、ユーザーにとって使い慣れたものだけを生産していくだけでは「あたりまえ」の域を出ることができません。

話が飛躍してしまいましたが、これは、自身が感じている課題でありやりがいです。今後も自分たちが作ったものを色々な角度や距離から眺めつつ「不自然なものではないか」「これは消した方が良い不自然か」「残した方が良い不自然か」ということを常に考え、ものづくりをしていきたいと思います。

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Richi Nogawa

1997年生まれ Story & Design Team デザイナー。イラスト作成、動画作成などが得意。